2012年2月19日日曜日

君は僕を笑わせる。笑い事ではなく。

人生はいくらでもやり直しがきくというのは、詭弁かも知れないし、綺麗事かも知れない、そんな環境や親、地続き的に続いていく関係の中で開き直るのはそう簡単なことじゃあーない??

人生はビギナーズ


あらすじ:ある日突然、父・ハル(クリストファー・プラマー)からのカミングアウト。「私はゲイだ。これからは本当の意味で人生を楽しみたいんだ」それは44年連れ添った母がこの世を去ってから、癌を宣告された父・ハルからの突然の告白。元々は厳格で古いタイプの人間だった父が、そのカミングアウトをきっかけに若々しいファッションに身を包み、パーティやエクササイズに精を出し、若い恋人まで作って、新たな人生を謳歌した。一方、息子・オリヴァー(ユアン・マクレガー)は38歳独身のアートディレクター。友達は仕事と犬。元々の臆病な性格故か、父のカミングアウトにも戸惑いを隠せない。父と母の間に愛はあったのか? ふたりのあいだに生れ育った、“僕”とは―?そんな様々な過去に戸惑うオリヴァーとは裏腹に、父の生き方はとても潔かった。父の振りまく愛に、周囲の人は素直に心を開き、また父も素直にその愛を受け入れた。身体は癌に冒され、確実に最期の日は近づいていたが、決して心は衰えることなく、今までのどんな時よりも前を向いて生きようとしていた。そんな父と語り合った母のこと、恋人のこと、人生のこと―。オリヴァーはこの語らいの中で、父もまた過去においては、 親や母との距離において多くの葛藤を抱えながら生きていたことを知り、改めて自分自身の生き方を見つめ直していく。
ポスターやフライヤーのイエローの印象からポップなお話だと思ったけど、大いに裏切られた。父ハルを演じるクリストファー・プラマーの好演にあの笑顔は、それは春爛漫と輝いているのだけど、全体のお話はどうにもこうにもオリヴァーくんのウジウジをぐるぐると堂々めぐりする。オリヴァーくんは、どこか冷めてて熱を持つということができない。仕事としてポップなイラストを手がけていることが対比的にオリヴァーくんの心の居座りどころのなさを感じさせ、犬に話しかけたり話しかけられたり、決壊することのない鬱積した何かがある青年。そんなオリヴァー君になってしまったのも、親の背中を見て育ってきた、親の冷めたどこか心の通っていない様子を見てきた影響であって、そこに父のゲイのカミングアウトが決定的な追い打ちとなってしまう。お父さんが簡単に開き直ることができたのは、人生の終わりが近づいていることもあるし、お父さんを唯一縛り上げていた奥さんの死が皮切りに誰にも隠し立てする必要がなくなったからであって、きっかけとして至極単純だ。人生をやり直すように生き生きとした親父さんを見て、今までを反面教師的に思えば、自己否定的な喪失感を味わうオリヴァー君である。

ただこの自己否定的な喪失感は、さらに言えばお母さんに対しての罪悪感なんだと思う。お話の中で父ハルは、母を愛していたし母のために病気としてゲイを直そうと努力を続いけていたが直せなかった、母があたしが治してあげると結婚した判断は、結果として父ハルを縛っただけになってしまった。愛し合っていたといっても夫婦の心の通っていない関係を見てきたオリヴァーのそばにいたのは母だった。愛し合っていたといっても、母は父を縛ってしまっていた。そして母の死と同時に解放されたように生き生きとした父を見て、父を許すことが同時に母を否定することになりかねない危うさの中で自己否定的な喪失感が重なっていく。しかも母親自身がユダヤ人として隠れる側にいた人間だったのだから、母がそもそもユダヤ人という生まれに縛られる苦しみを味わう側の人間だったけれども、父を縛っていたのだからなぁと思ってしまう。すこし奥さんには救いがない?

オリヴァーのウジウジに拍車をかけるのは、まさしくこの点だろうなぁと思いながら観ていた。とあるパーティで出会う不思議な女性アナに惹かれていくところから、物語は父との時間とアナとの時間とで交錯していく。アナの喋れない女の子のふりをした登場から、オリヴァーと一緒に惹きつけられていくがその時同時に思うのが彼女のめんどうくささというか彼女自身も抱えているウジウジさだ。不思議ちゃん。アナもまたユダヤ人であり、しかしそれを隠そうとはしない奔放な姿勢、すこし母と重なる。

恋に落ちていく二人だが、ここからオリヴァーくんのウジウジに二人して葛藤するので、ヤキモキする(嫌いじゃない)

ここで父ハルと母の関係が、蘇ってきてとても辛かった。どこか冷めてしまう故に結局うまくいかないんじゃないか母のように愛なんて結局彼女を縛ってしまうのではないかという不安がオリヴァー君の表情からいやほどと伝わり、アナもまた母のように愛してくれてはいるけれどどこか心の通っていなさをオリバーに対して感じてしまう、この溝が埋まらないままにウジウジウジウジする。アナが一緒に暮らそうって部屋を見に来た時に、突然泣いちゃったりして悲しかった。そして交錯して映される開き直って人生を謳歌する父ハルの姿に、あーどうしてこうなってしまうんだろう。こんなうじうじしてんだよ。なんてつくづく思ってしまう。

印象的なシーンに台詞がある。オリヴァーが看板に書いた言葉。
"YOU MAKE ME LAUGH BUT IT’S NOT FUNNY." (君は僕を笑わせる。笑い事ではなく。)

途中に差し込まれる絵本の中でもほんとうの姿は、時間が経たないとわからないんだーなんて言っていたような気がする。そんなこと言われたら、オリヴァー君のように親でそんな現実を見ちゃったら怖いし、不安だし、複雑に考えも過ぎちゃうかな。あのお仕事としてのイラストで過去の女の子のお話をとにかくイラストにしてみたのなんて、女女しく、とにかくもしあのままあの子と続いてたらどうだったのかの考えに考えていたのか?そこからアナを縛らないでずーっと一緒に幸せになれる道を模索したかったんだろうか、過去の女の子のところに考えを巡らすウジウジさw

結局オリバー君は、うじうじと突き放したアナにもう一度立ち向かっていく。もし、父ハルがゲイの告白をしてオリヴァーに色々と語り聞かせるようなことをしなければ、オリヴァーはアナと真摯に向き合うことは出来なかったのかも知れないのだから、地続き的な関係の中でしかむしろ開き直ることはできないのかも知れない。そんなことを思いながら、最後に二人の笑顔にタイトル「BIGINNERS」と写される瞬間、人生知らない間に縛られるかも知れない、二人はうまく行かないかも知れない、先のことなんて考えた所でわからない、でもそんなことばかりなんだよ。笑い事じゃないよねぇ。それでも謳歌しないと…!!

いいキャスティングに支えられたうじうじ映画でした。

そういえば、今年のおみくじは、取り越し苦労すんなよー!って教えだったことを思い出した。取り越し苦労して大事なものを見失わないようにしたいですね。